他流試合(2023年7月・京都・東福寺)

40度近い暑さが続く京都であるが、この日はおだやかな暑さである。
なんせ、朝6時だから。
東福寺の日曜座禅会に初参加した。

京都駅を南下し、寺の近くの来ると、道が急にせまくなる。
一方通行の小径を進むと、緑に囲まれた門が見える。
車でくぐっていいものかと、そろりと進ませると、警備員さんが「どうぞ」とばかり合図してくれる。
本堂の前のスタッフは、右手を差す。
駐車場にはすでに5台ばかりの先客が。

入り口で靴を脱ぎ、禅堂に入る。
薄暗い堂内には、すでに参禅者が坐蒲の上で足を組んで準備している。
床面は石なので、少しひんやりして夏は素足に心地よい。
花頭窓からは朝の優しい光りが差し込む。

床面から1mほどの高さに、畳がある。
開始の6時半には50人ほどがいただろうか。
ちょっとした導師の説明があり、いつともなく読経が始まり、おリンが鳴る。
いつもひとりなので、勝手がつかめない。
臨済宗の座禅は、曹洞宗と異なり、対面で座る。
これまで座禅会なるものに参加したことがあるが、人数がそこまで多くなかったこともあり、
対面は初体験であった。
「視線が合ったらどうしよう?」とか考えていたが、始まってしまうとどうもない。
床面が広いので、視線は対面する参禅者でなく、床の石面に落ちる。
少し安心した。
息を整えていると、どこからともなく「バシッ」という音が2度、響き渡る。
警策を受ける音である。
導師の気配を感じたが、私は受ける気がないのでスルー。
だが、参加者は意外にお好きで、方々で「バシッ」の音が起こる。
人数が多いこともあり、「ビシッ」「バシッ」が続く。
不覚にも、これで心を乱されてしまった。
(いつもはひとりなので…)
ひょっとしたら、警策ってやってもらうのが、礼儀なのかしらとも思う。

そういえば、いつもニュースレターを送ってくれる禅僧にこんな話が載っていた。
住職が寺を留守にしていたところ、旅の僧が来て、「座禅をして、警策を受けたい」と言ってきたという。
丁重に「帰りが遅いので、一度お帰りください」と断ろうとした。
すると、「あなた様の警策をお受けしたくて、来ましたので、お帰りまで待たせていただきます」と言う。
確かにそのお方は、僧侶の世界では知られる方。
アントニオ猪木さんの「ビンタ」みたいなものかもしれない。
住職は「そこまで言われるなら」と、帰って座禅で警策を授けたという。
だから、ここの「ビシ」「バシ」やられる方たちも、「眠い」とか「集中できないから」とかではなく、
修行の一環として「気合を入れてもらっている」のかもしれない。

そんなことがいろいろ頭を駆け抜けていたら、また読経が始まった。
そして、終わりを告げる「り~ん」。あっという間の座禅会であった。
時間も30分だったから、つらさもなくて幾分拍子抜けの他流試合となった。

表に出ると、じわりと汗がにじむ。
7時になると、暑さがにじりよる。
案内板には「1347年に建てられた室町時代の建築で、最大最古の禅堂」とあった。
南北42mに東西22mとデカい。そして雰囲気と座り心地のよさは格別であった。

また一座させていただきたく思う。