舞台は関西だった。大阪の梅田近くに泊まるということで、幼少期を過ごした天満に足を運んだ。長い商店街が有名で、未だに下町情緒あふれるかいわいだ。
昔、鬼才・青木雄二が書いた漫画、『ナニワ金融道』に天満のまちが登場し、阪神ファンの集う店まで書かれるディテールに感激した。安い焼き肉屋と消費者金融が似合うこじんまりしたところだった。
久々に行って、おったまげた! あのスーパーが出現していたのだ。その名は『スーパー玉出』。大阪市西成区に本社を置く、泣く子も黙る激安スーパーだ。大阪丸出しのコテコテの電飾が視界に飛び込んでくる。徹底した激安路線で、時間によっては「1円セール」なるものも開催される。恐る恐る店内に入ると…。魚に、弁当に、とにかく安い。
ここはどこや…?ほんまに日本か…!?
客もえぐかった。上下真っ赤なスエットのパンクじいさん。もはや無法地帯だ…。
『スーパー玉出』は、大阪南部中心の出店で、キタの地で見かけることはなかった。ゆえに、関西の人間でも、ブルジョワスーパー『成城石井』あたりに通っている御仁は、「どこのスーパー?」と、その存在すら知らない。ウィキペディアで調べてみると、2009年に「大阪・キタに念願の初出店」とある。「念願」とはおおげさな…と笑うなかれ。これはナニワの事件なのだ! ホント、スーパーに足を踏み入れたらビビるから。
さらに驚かされたのは、見慣れたあの喫茶店のロゴも! そう、名古屋で知らないものはない『コメダ珈琲』も看板を出しているのだ!!天満のこの変わりように、わしも仏友もしばし絶句した…。
東海エリアでは、コーヒーにお菓子などのちょっとしたおまけがつくという喫茶店文化を持つ。その象徴がコメダ。おまけだけでなく、新聞や週刊誌がすべて取りそろえられており、何時間でも時間をつぶせるというのも魅力だ。小生はその快適さから「名古屋のスタバ」と思っておる。「関西にも出店すれば、絶対にはやる!」と言い続けていたのだが、すでに出店していたとは、恐るべし…。
庶民の救世主『スーパー玉出』とおみゃー文化の権化『コメダ珈琲』の2大巨頭が、天満を巡って壮絶な侵略戦争を繰り広げていたのだ。JRで大阪から1駅という好立地ながら、安い寿司屋さんなどで、隠れ家的な地位を保っていたわが天満が、まさに〝外資〟に席巻されようとしている!確かに、駅の周りは、もう意味不明なオヤジが大声で飲んでいそうな居酒屋などは目立たなくなり、カップルが入りそうなオシャレな店も多い。
「どないしてもうたんや(どうしちゃったのよ)、天満!?」
コメダのコーヒーをすすりながら、仏友にまくしたてた。ちなみに、この仏友を産んだ大阪府・箕面の地にも、近年コメダができたとHPに書かれていた。そのうち、玉出も来るでぇ~。震えて待て!
さてさて。天満を北上すると、天六というところに出る。天神橋六丁目のことだ。そこで般若湯(お坊さんが言うところのお酒)を食らった。このバーがまた酔狂。その名を『坊主バー』という。
わたくし、実はここの開店に先駆け、オーナーとマスターと物件を一緒に見て回ったんですわ。通りがかりだったのだが…。場所は梅田から無理すりゃ歩ける地下鉄・天神橋六丁目からすぐのところ。大通りから少し路地裏に入るのですが、これが情緒ですな。
小生が鼻水垂らしてたときは、親から「天六からむこう(北)は、行ったらいかんで、ごっつがら悪いから」と釘を刺されていた恐怖の場所。実際、昔は某中学に街宣車が停まっていたという。ビビリながら、愛車(チャリ)を飛ばして、ガンプラ(ガンダムのプラモデル)を買いに行ったことがある。「少し安い」と、転校生が教えてくれたので…。あのときは、ガキながら命がけやったなぁ。
少しノスタルジックになったのですが、バーの話です。
下見のときは、うらびれたスナックでしたが、新装開店したらこのとおり。
扉を開けると、仏画に仏像に、そしてお坊さんです。これぞ、〝仏・法・僧〟じゃ~。説明しておくと、マスターは清さんという、パンクに仏道を突っ走るお坊さんで我々が勝手に「師匠」と呼ぶお方。難波の三ッ寺に初代『坊主バー』を出していたのですが、種々の理由で閉店。ですが、各方面からの後押しもあり、アスファルトを割って生える『ど根性大根』のごとく、再び天六に開店したのでした。
(我らが初めて初代坊主バーを訪れたのは、忘れもしない2002年12月29日の根来寺への「納め地獄」の帰り道でした…こちらに少しだけ登場。)
(そしてまた、清文彦老師についてご存じない方は、こちらの「数珠つなぎ仏教人」でチェック!)
店内には、『極楽浄土』『遊煩悩林』やらと悪酔いしそうな般若湯が種々取り揃えてありまして、つまみはご勝手にと。気さくに、やられておりました。そして相変わらず、世間ずれした熱いトークに花を咲かせました。われら真摯な仏弟子にとっては、至極真面目な仏教トークは実に楽しい。バーを仕切っていたバーテン女性のひと言が、特にうれしかったなぁ。
「MONKフォーラムの方なんですか? サイト知ってます。前々から気になっていたんですよ!!」
ま、マジもってですか? 初めて、公の場でその存在を知ってもらいましたよ。拙者ら涙がちょちょギレる。話は弾み、修行のことなんか、マスターの清さんに聞いちゃうんですよ。
「浄土真宗は、すぐに出家できるイメージがあるんですけど、修行はどんな感じなんですかね?」
「うちはゆるいで。でもな、そもそも修行を厳しくする理由がわからん。阿弥陀さんが全部やってくれるんやから。」
実に明快な答えです。てな感じで、コアな業界話に耳を傾け、高野山入りの前夜を堪能したのでありました。そうそう、他にも2人のお坊さんがおられました。でも、清さんは浄土真宗で、もうひとかたは真言宗。「これってどうなんですか?」とまたまた疑問が。
「宗派なんて関係あらへん。真言宗でもええやつはええし、浄土真宗でもわからんやつはわからん。ホンマもんはホンマもんやで!」
「うまいモンはうまい!」とCMで吠えた鶴瓶師匠のように、ストンと腹に落ちてきましたよ。これぞ、仏陀が教える融通無碍。空海がえらいとか、日蓮がどうだとか、宗派でいがみ合うのは、益なきこと。バーを出してまで、仏法を世間に広げようと、奮闘している清さん。「彼が一番ホンマもんやで!」と、真夜中の、若干怖い大阪のストリートを、仏友と感涙した帰り道でした。
向かって右端のやたら若く見えるのが清老師