番外編で伝えときたいことがある。
海岸寺副住職の細やかな優しさである。
わたしが訪れた8月初旬の週末というのは、地元の人にとり、特別な日であった。
それはあとで知ることになるのだが…。
「よかったら、その神社にも行ってみますか? 車だとすぐですから」
その神社というのは、海岸寺から海岸に沿って西に行った津嶋神社である。
この神社は、海岸からすぐの津島というところにある。江戸時代に海の神様からご神託があり、「島に木を植えてまつれば、それがご神体になり、子どもと牛馬を守る」といわれたという。
やがて祠ができ、それを祀ったのが旧暦の6月24、25日。今では夏休みに合わせて8月4、5日に夏季大祭が行われる。
それから子どもの健康と成長を祈り、数多くの参拝客が押し寄せる。
あまりに多くの参拝客が来るということで、
1915年に祭りのためだけに「津島ノ宮」という臨時駅が開設!
これが今では年間2日間だけの営業する駅、つまり日本で一番営業日が短い駅として、鉄道マニアに知られる駅になった。
ちなみに、佐賀県のバルーンフェスタに行ったことがあるが、そこにも臨時駅ができる。名前は「バルーンさが」駅。
ただ、フェスタ開催期間中に営業だから、1週間ばかしは営業している。
「津島ノ宮」の短さにはかなわない。
また鉄っちゃん自慢かい!
ときが過ぎ、この島まで篤志家により橋が架けられた。
1933年のこととHPにはある。
島に向かって、250メートルの橋がつけられた。
ここからがこの神社のキモの部分。
普通ならば、橋ができたなら、いつでもお参りできるかというとそうではない。
なんと、お祭りが行われる8月4、5日のみ橋を通行可能とした。
それ以外の日はわざわざ橋の板を外すのだそうだ。
もったいをつけて、付加価値を上げるのですな。
すると、「1年で2日しか渡れない神社で子どもの健康を祈る」というありがたさが全国に広がり、この2日だけで約5万人が押し寄せるパワースポットになった。
そんな説明を聞くと、俄然興味が湧くのだが、肝心の神社がある島に渡る参拝路が賑わうのは、あす4日と次の5日。
つまり、わたしが島に向かっている3日は前夜と言うことで…準備は見られても渡れないということ。あぁ、1日ずれていたら…。
しかも副住職は「子どもが生まれたばかりで、あす(4日)に妻とまた来る予定なんです」と話す。
きょう知り合ったばかりのおっさんに、なんたる心配り。
駐車場には人が集まっていた。屋台の準備かと思っていたが、様子が違う。
思わぬハプニングが起こっていたのだ。
なんと、3日の夜から橋が渡れるようになっていた!
「地元の僕でも知りませんでした! しかも夜に神社に渡れるなんて! 行きましょう」
わたしも副住職同様、想定外のラッキーに驚いた。
そして、闇の海に向かって伸びる幻想的な橋に歩みを進めた。
「ほんとにラッキーですよ。あしたに来ても、人混みでこんなにスッと進めませんから」
確かにまだ開業していない駅を目当てに、鉄オタも押し寄せれば、さらなる人だかりになるはず。
その価値がある神社である。
小さな島に立つ島にはすぐ鳥居と石段があり、それを登ると、祈祷を待つ子どもの姿が本殿にあった。
海に目を移すと、漆黒の闇。
ジブリの世界に迷い込んだような不思議な感覚で、来た橋を戻った。
「海風が罪やけがれを流してくれるともいわれているんです」
副住職が優しく説明を加えてくれる。
こころが軽やかになる讃岐の寺社仏閣紀行であった。
追伸:
ちょうどこの文章を書き終えたころ、かの副住職から丁重なお手紙が届いた。
空海お手製のご手判なるものと、「寺納證」といういかめしい証文である。
証文はいまでいうところの領収証であろう。この年季が入った代物は感激ものであった。
最後までお心遣い痛み入ります!
●津嶋神社
香川県三豊市三野町大見7463
JR予讃線・津島ノ宮からすぐ(神社、鉄道駅は8月4、5日のみ営業)
*3日の参拝は要確認
☎0875-72-5463