「慈眼」その後…(2019年8月・福島県会津美里町・龍興寺)

2019年9月01日(日曜)20:02に公開
作者: 空石
知ってしまったからには、行かずにはおられない。
風薫るすがすがしい福島・会津地方を車で走っておる。
 
会津若松城がある市街地から30分あまり。
会津美里町にある龍興寺を目指した。
 
どうしてこの地を選んだのか?
少し寂しげな町の中心に来るとわかる。
 
入り口に小ぶりのロータリーがある公民館。
 
pic jigenji 17
 
今は閉館となっている会津美里町公民館。
その入り口に、あのお方がおられる。
 
pic jigenji 15
 
慈眼大師こと天海の像が堂々と立っておられる。
道路を渡ったところにそびえる石碑には、誕生の地ともある。
 
pic jigenji 16
 
初期の徳川幕府を支えた名宰相ゆかりの土地なのである。
 
以前の百日さんにさかのぼろう。
私は誰に頼まれるでもなく、「慈眼寺」詣でを敢行しておった。
そして何の因果か、見つけてしまった慈眼大師誕生の土地!
この町にしてみれば、会津といえば白虎隊もよいが、天海さんちゃうの!
町のシンボルにしようとした形跡もある。
 
pic jigenji 14
 
そこからすぐにある龍興寺は、天海が出家した寺院とされる。
開基は東北では立石寺こと山寺を開いた円仁さん。
 
こういうお寺は一か八かのところもある。
どういうことかというと、まず観光寺ではない。
ということは、檀家さん向けで、一見の参拝客は相手にしてくれないことも少なくない。
ましてや、まだお盆が明けてまだしである。
お寺にとっては、忙しいことこの上ない。
 
本堂の扉が閉まっていたので、「ごめんくださ~い!」と入り口のブザーを押した。
 
「入ってもらって構いませんよ」
 
中から声がする。
よかった。お寺の方はおられるようだ。
 
pic jigenji 18
 
本堂に上がると、ご住職が背筋を伸ばし、端座しておられた。
正面には金色に輝く豪華絢爛の厨子が圧倒する。
正座しながら、お寺のいわれを質問する。
住職は丁寧に、通る声で朗々と解答してくれる。
どういう流れだったか「天台は行が厳しいですね」という話になった。
 
すると、ご住職の眼光が一層輝きを放った。
 
「私は行者ですから、そういうお話にご興味があるなら、お茶でも飲みながら」
 
我が意を得たりというところか。
でも、お寺の住職さんじゃなかったのですか?
 
「そんなことは自分では言いませんからね」
 
MONKでも話題になった百日さんである。
千日回峰行を満行した阿闍梨なら、放っておいても話題になる。
でも、「百日ですか?」とは普通聞かれない。
 
天海さんはすっ飛ばして、天台宗の修行の話に花が咲いた。
百日でもやはり、『自分でやりたいからでは…』とはならないそうである。
ご住職の場合、「やらんか?」と師匠から言われたのを「考えさせていただきます」と
答えたら「アホか!」となったという。ものすごく名誉なことなのである。
 
百日さんも行う「太鼓回し」の地獄のような苦行を垣間見た。
 
「わたしも意識がなかったですよ。
先輩は大声を出していたと思いますが、ああでもしないと、初心者は失神してしまう。
命がけなんですよ」
 
比叡山の最澄廟の掃除を十二年も行う籠山行のこともうかがった。
 
「宮本さんの本を読んだの? 彼とは一緒に行をしたこともありましたよ。
ずっと掃除っていうけど、あそこは湿気が強くて、体がすぐにやられてしまう。
掃除をし続けるということは、体温を保つ意味があるんですよ」
 
なるほど、理にかなった行なのである。
 
「あれがつらいのは、後継者がいないと、行をやめられない。
だから、宮本さんも十二年を終えても、ずっと行を続けておられた。
今? 当然、行を行われている方はいますよ」
 
1つ疑問が沸いた。
ご住職は行者といわれたが、お寺もやられている。
ということは、行者が忌むとされる葬儀はどうされるのか?
 
「師匠は『なにがいかんのや? やればいい』とおっしゃってくれた」
 
その代わり、葬儀に挑む際は、
体を清め、衣はもちろん、数珠まで新しいものに交換するのだという。
けじめをつけられているのだ。
 
境内の裏手には、蓮の池があり、きれいに手入れされている。
 
さて、ご住職との対話で『なぜ行を行うのか?』ということがおぼろげながらわかってきた。
 
宗教者は異能のものでなければならない。
 
葬儀などの法要を行うには、普通の人間ではつとまらない。
そのために、厳しい行を修め、異能を習得する。
異能だからこそ、引導を渡し、浄土に旅立たせる。
 
天海誕生の地で知った天台行者のお姿。
 
「慈眼の旅」はさまざまな驚きと発見授けてくれる。
 
 
 
●龍興寺
  大沼郡会津美里町字龍興北甲2222-3
  JR只見線・会津高田から徒歩10分
  ☎0242-54-2446