こんなところに、韓国の仏教! 前編(2019年7月・長野県北安曇郡松川村・観松院)

はるばる来てしまった。
長野県は松本から北上すると、松川村というのどかな田舎町がある。
安曇野北部地方と言えば、少しイメージしやすいか。
わさびが有名ということだから、水も清涼なのであろう。
夏はいい。暑くて、蒸しっとする殺人的な関西とは対極の気候である。
みずみずしくて、カラッとしていて、小金でもあれば、移住でもしてみたくなるほど。
実際、関東からの移住者も増加しているらしい。
 
まぁそんなところだから、人通りは少ない。というか全くない。
お寺ならなおさらである。
 
小雨の中、傘をさして人を待っている。
目の前にはあばら屋のようなお堂。
 ここが観松院である。
pic mirokubutu 01
 
その今にも崩れそうな木製の縁側に腰をかけた。
 
「お待ちになりましたか?」
 
人の良さそうなおじさんが、小走りでやってきた。
彼はお寺の人間ではない。
松川村の教育委員会からの委託を受け、斜め向かいの収蔵庫を管理している。
 
pic mirokubutu 02
 
なにやら暗証番号を照会して、鍵を開けている。
厳かに蔵の戸が開けられると、中でもまた硝子戸が行く手を阻んでいる。
 
こんな田舎町の小寺に、とてつもないものが収蔵されているのだ。
硝子越しに目をこらすと、奥に小さな仏像がみえる。その大きさは30cm。
愛くるしい表情で軽く右手を挙げている。
これこそ、銅造菩薩半跏像。
朝鮮の新羅で作られたものとされ、重要文化財に指定されている。
細身の作りは、広隆寺の半跏思惟像を想起させる。
確かに、日本の仏像とは異なる独特の風情を醸し出している。
 
600年代前半の作といえば、聖徳太子の時代であり、
しかも新羅と百済が激しく戦う世に、来日したとあれば、
なにやら曰く付きの仏である。
だが…。
 
「詳しいことはなにもわかっていないんですよ」
 
お寺にある経緯も定かではなく、
当初はお堂の軒下に転がっていたともいう。
 
pic mirokubutu 04
 
「それをお寺の安寿さんが、仏さんだからというので、お堂に入れて、
それでも子供がおもちゃがわりに遊んでいたらしいんですよ」
 
なんと、重要文化財がガキの遊具とは、この仏さんも因果な運命をたどってこられた。
 
「安曇族のお話をご存じですか?」
 
話慣れておられるのか、管理人のおじさんは、話の運びが絶妙である。
安曇族とは、古代から九州の玄界灘付近を牛耳っていた海の民で、
それがなぜか日本各地にその足跡が残されているのだそうだ。
滋賀県にある安曇川などは、その名残とされており、安曇野もその1つとされる。
ぞくぞくさせられる渡来仏のミステリーに、思わず引き込まれる。
その謎に、近くにあるちひろ美術館の松本猛館長が迫られた。
渡されたパンフレットには「失われた弥勒の手」という著書を書かれたとある。
 
そのそもなぜ、海の民が海のない長野県に来たのだろうか?
そのあたりの考証が、本には収められているのであろう。
 
小雨の中、時間を忘れて話し込んでいたが、ふと寒気が走った。
 
「お時間は大丈夫なんですか?」と申し訳なさそうに尋ねた。
 
というのは、教育委員会から送られた書類にこうあったからだ。
 
「拝観は300円、硝子ケースを開けて、手に触れる場合は1万円」
 
そしてこうもあった。
 
「30分以内を拝観時間として、それを超えた場合も1万円」
 
違法駐車の罰則みたいだが、1万円となると財布がすっからかんになってしまう。
だが、おじさんの善意でそこは大丈夫のようだった。
 
1万円とは、強気の値段設定だが、はたしてそこまでの需要はあるのだろうか?
確かに、1万円のサービスは「撮影可能」など、仏像好きを少しくすぐってくる。
ただ、1万円は高すぎるのでは…。
 
「1万円でも団体で来られて割ると、1人当たりは1000円とかそんなぐらいなんです」
 
なるほど、何人でもフィックスプライスなのか。
1000円なら妥当。
パンフレットもなかなか親切。逆に300円は安すぎると思うわ。
 
「先日はポーランドから見学に来られる方がいました」
 
韓国でもなく、欧州か!?
 
聞けば、この渡来仏はすでにロンドンやニューヨークで展示されたことがあるという。
正直、わたしも最近までこの仏の存在を知らなかったが、
海外の人間の方が、このミステリー仏に接する機会が多かったのだ。
 
「韓国では展示されたことはあるんですか?」
 
男性は難しそうな表情を浮かべた。
 
「何度か韓国からそんな話もあったらしいけど、
対馬の仏像の件とか、いろいろ難しさもあるからねぇ」
 
故郷への帰還はなされていないらしい。
 
艱難辛苦を乗り越えてきた弥勒仏は、故郷に帰りたがっているのであろうか?
いにしえの仏は、ただほほえみをたたえるだけである。
 
pic mirokubutu 03
 
 
●観松院
  長野県北安曇郡松川村町屋1324
  JR大糸線・信濃松川から徒歩14分
  連絡は松川村教育委員会
   *拝観申し込みは1週間前までに(☎0261-62-3111)
Joomla templates by a4joomla
Copyright 2000-2018. MONK Forum. All rights reserved.
No reproduction or republication without written permission.