幾多の教訓を含んだ橋(2016年3月・大阪市・瑞光寺)

一度は行くべき寺である。
珍しさもあるのだが、いろいろな意味で世界的な関心事にもからまっている。
 
阪急・上新庄を降り、下町風情の残る通りを進んで10分弱ぐらい。瑞光寺公園の中に、目的の瑞光寺がある。
なにが珍しいかって、見りゃわかる。
 
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ほれ。橋がなにやら奇妙な白いくすんだものでできているようだが…。
そう、これこそが橋マニア(そんなマニアがいるかは知らぬが)には垂涎の雪鯨橋である。名前の通り、鯨の骨でできている。
奇をてらってるわけじゃない。
深い話があるのです。
住職婦人が、絵本を渡してくれた。
 
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絵本によれば、1756年というから江戸時代、捕鯨の町で有名な太地町を通りかかった僧侶が、不漁で苦しむ漁師から祈祷をお願いされた。はじめは、「仏教では、殺生はどうも…」と断っていたが、住民の生活も考えると、断り切れなかった。祈祷を行うと、鯨の大群が現われ、村が救われたという。僧侶は、悲しみながら瑞光寺に帰ったが、村人は「お礼です」とばかり、お金と鯨の骨をお寺への寄付とした。それから、住職は、「生き物の命を大事にする」という意味を込め、鯨の骨を橋として再利用したという。そんな話が、現在にも受け継がれている。住職婦人が教えてくれた。
 
「今でも50年ごとに、太地の方が鯨の骨を持ってきてくれる」
 
年月が経っているので、幾分純白であったであろう橋は風化はしている。ただ、これは持ってきたときから、なんの加工もされていないそうである。
 
「骨といっても、最初はスゴく臭いがあるから、2年ぐらいは油抜きをする。それでやっと、こんな風になるのよ」
 
歴史を重ねていくというのは、結構手間もかかるのだ。さらに、これまでは50年ごとの架け替えだったが、専門家によれば、大気汚染などで、30年ぐらいで代えていかないとダメなのだという。
 
昨今では、過激な環境保護団体・シーシェパード(船に体当たりしてくるやつ)などが、捕鯨反対を訴えている。2009年には、太地町のイルカの追い込み漁を題材にした映画「ザ・コーブ」がアカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門の賞を獲り、世界的な話題になった。
この映画だけを観れば、イルカのような頭のいい動物をなぶり殺す太地町の漁師は、血も心もない殺人鬼だということになる。太地町から寺への贈り物は、調査捕鯨で獲られたイワシクジラの骨で、当然、橋のために鯨を捕っているわけではない。あの映画制作者が、この事実を知れば、日本人は橋を作るために、罪もない鯨まで殺す、ということになる。
 
こんな理不尽な映画はない!
同じことを思う人間はいるものだ。
この映画を日本人の立場から反論する「ビハインド・ザ・コーブ」という映画が、今年公開されているので、見に行った。だいたい予想している内容だったが、日本人の立場からは幾分スカッとした。
まず、殺戮者として扱われていた太地町の人らの笑顔が印象的だった。
そら、そうでしょ。人があまり来なかった田舎町に、ズカズカ外国人が乗り込んできて、勝手にカメラを回して、「あなたはなぜ、イルカを殺すのですか?」なんて聞く輩に、誰が口を開くねん。でも、きゃつらは。是幸いと『殺人鬼は自らの罪を認めない』とやる。
「ザ・コーブ」は賛否両論あるなんてされていたけど、一方的な欠席裁判。「ビハインド…」と見て初めて、「さあどっち?」としなければ、民主的ではなかろう。
 
でも、この問題って、難しい気もする。正直、戦後すぐの世代ではない我らにとり、日本人の食糧難を救った鯨はもう高級魚。シーシェパードが、勝手にのさばるのと、太地町の住民が被害を受けることには憤慨するが、なにがなんでも鯨を食べよう、声高に叫ぶ気にはならない。
「ビハインド…」が進めていった手法で明らかになるように、これは政治問題なのだ。「日本がいじめられている」との論が随所ににじみ出ているが、言ってみれば、日本の外交筋は、おそらく鯨で妥協して、他の譲歩を引き出したのだろう。太地町を犠牲にして。それがわかれば、日本人の一般的スタンスは、シーシェパードには反対だが、大枠の国益を優先してほしいとなる。だから政治問題。戦うなら腹決めて、文句を言ったらいい。
映画はいいきっかけになったけど、「アメリカ人も昔は鯨を乱獲してたやんけ!」と、お互いの揚げ足取り合っても仕方ない。
日本はすべての生き物を大事にしてきた。粗末に扱ってこなかった。それは、全国に散らばる鯨供養碑をみればわかる。蟹だって、鰻だって、ゴキブリ(高野山の奥の院にある)だって、供養を行う。だから、鯨だけの問題でない! 日本人が古来から培ってきた倫理観に挑戦状を突きつけられているのだ。「食べている」からとか、そんな安易な考えで欧米人の論理に反論したら、相手の土俵に乗るだけで、お決まりの泥仕合になる。
 
先の寺の話には続きがある。
瑞光寺の雪鯨橋には、ちびっ子の見学者が訪れる。
太地町の小学生が、鯨文化を学習する一環である。
現代人は、食に至るまでのイマジネーションに乏しい。
だが、それを教え、伝える文化もある。
 
ひっそりと架かるこの白くくすんだ橋は、多くの教訓を含んでいる。
 
 
瑞光寺
 大阪市東淀川区瑞光2-2-2 
 阪急京都線・上新庄から徒歩7分
 ☎06-6328-3831
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