遠州紀行②~もう一つの火まつり~(2015年12月・浜松市・秋葉神社)

前コラムで訪れた可睡齋の火まつりが終わるのが、12月16日である。
実は、この日も秋葉の火まつりは行われている。
西に行った浜松市の天竜川沿いの山の奥、秋葉神社の大祭である。
前後するが、そもそも可睡齋の火まつりは、
秋葉神社境内にあった秋葉寺(しょうようじ)で行われていた。
それが、明治の廃仏毀釈やら、住職の不幸などで寺が傾き、
可睡齋が助け船を出し、ご神体を拝領し、今に至ったという。
 
それで、秋葉神社の火まつりである。こちらは14から16日まで行われる。
古来からあった秋葉大権現というのは、神仏混淆の神社であった。
真言宗が主導権をもって、日本古来の神道との融合をはかった両部神道で、
仏教の仏様でもある秋葉大権現(仏教の菩薩が日本で生まれ変わった)が誕生した。
 
だから神社とともに、秋葉寺も併設されていた。
こちらも明治維新のおりに、神道派が分離独立。
 
「もとからここは神様を祀っていた」
 
火之迦具土大神(ひのかぐつちのおおかみ)をご神体に神社を改めて建てた。
それが秋葉神社。
強引にまとめると、江戸時代ぐらいまでは神社か寺かの区分はあいまいで、
秋葉大権現を秋葉神社と秋葉寺で祀っていた。
それが融通が利かない明治政府により、寺と神社で分けられた。
だが、もとは同じ火伏せの神様である。
現場ではあんまり目くじら立てんと、別々に「火まつり」しましょ、というところに落ち着いた。
 
名古屋の例を出そう。
「味噌煮込みうどん」という名古屋めしがあるが、有名店に山本屋というのがある。
まぎらわしいことに、「山本屋総本家」と「山本屋本店」というのがある。
古いのは総本家の方らしいですが、だから偽物というわけでない。
本店の方がうまいという名古屋人も多数いる。
可睡齋と秋葉神社の「火まつり」もそんな関係か。
味噌煮込みうどん同様、本家争いをしないところが大人である。
どちらも同根。お互い恨みっこなしでいきましょ!
本物論争は、意味をなさないのである。
 
さて、秋葉神社が祀る火之迦具土大神は、イザナギとイザナミの子である。
だが、生まれてくるときに炎でイザナミの女陰を焼き、殺してしまった。
怒った父・イザナギに惨殺されるという凄惨な過去を持つ神様だ。
とばっちりもいいところだが、火という性質から、破壊と誕生を司る神とされた。
 
火之迦具土大神に舞を捧げるのが、秋葉神社の「火まつり」の趣旨である。
可睡齋の「火まつり」が15日早朝に終わったので、
秋葉神社の「火まつり」をはしごした。
とはいえ、クライマックスは15日の夜10時過ぎという。
舞台の秋葉神社(上社)は800メートル級の秋葉山山頂に位置する。
ぐねぐねの狭い山道を車で突き進むことになる。
辺りは真っ暗。人などが通るはずもなく、車さえ見えない。
魑魅魍魎の世界のように思える。
 
「こんな山奥でほんとに祭なんかやってんのか? それとも道を間違えてるのか?」
 
疑心暗鬼になるほど、寂しい山道だ。
これが30分ほど続く。長い恐怖の時間だった。ゴール間近でようやく、「秋葉神社」のちっぱけな標識が見えた。
ひとまず安心。冷や汗が出た。
駐車場に車を止めると、桃源郷のような景色が広がっていた。前提として、辺りは真っ暗である。
12月の空気は澄んでいる。
息をのんだ。
 
「星が空を埋めておる!」
 
かすかに見える星座なんてレベルじゃない。
星座がくっきり判別でき、さらに運河も見える。
数分眺めていると、流れ星も確認できる。
 
「空ってこんなに神秘的なんや」
 
凍えるほど寒かったが、立ちすくんでいた。
こんな景色を前にすると、人は畏敬の念を抱く。
日蓮宗には、北極星を祀る妙見信仰があるが、そうでなくても、
夜空を見上げた人は、星に何らかの信仰を持ったことだろう。
冬の星座といえば、オリオン座だが、日本ではある楽器に似ていることから、鼓座と呼ばれた。
たしかにこちらの方がイメージしやすい。
毛利家の家紋は、横一の下に、3つの星がある「一文字に三つ星」。
この3つの星が、オリオン座の中央にかたまる3つ星という。都会にばかりいると、馴染みがないが、古人にとり、夜といえば、星だった。
大自然なるものに打ち震えた。
 
誰もいない石段を10分ばかり進むと、本宮が現われる。
もう祭りは始まっているようである。驚いたことに、舞台の周りには100人はいようか。
みんな防寒具で完全防備している。
 
可睡齋より、体感で5度は寒い。
歯がガチガチと鳴るのだ。祭りは、舞台で神官により行われ、
弓矢が放たれたり、剣で舞ったり、松明を振り回したり、3種の舞が行われる。
こちらは、可睡齋と異なり、舞は参拝者に披露される。
隠されているものがあるのかも知れぬが…。
 
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厳かに、粛々と祭りは進み、11時過ぎには終わった。
だが、寒さに震える100人は帰らない。
列をつくって、待っている。
 
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どうやらくじのようだ。
それがなかなか面白くて、祭りで使ったものが当たる。
桶やら、御幣やらを持った人が笑顔で帰っていく。
 
「弓矢が当たらんかな?」
「そんなん当たるわけないやんか」
 
古老らが話していたのは、舞で使っていた弓矢である。
価値あるお宝ということらしい。
古老が外れクジにうめき、私の番がきた。
 
何と弓矢が当たった。
 
こんなこともあるの?当方、このようなクジで当たったためしがない。
 
「大事におうちで飾ってください」
 
テレビ「開運!なんでも鑑定団」のように言われた。
そりゃ家宝にしますよ!行きは心細かったが、帰りは意気揚々と石段を駆け下りた。
充実の「火まつり」のはしごであった。
 
 
秋葉神社
 浜松市天竜区春野町領家841
 遠州鉄道・西鹿島から遠鉄バス・秋葉神社下車、徒歩40分
 ☎0539-85-0111
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